せん妄は、急激な意識の変化や認知機能の混乱を特徴とする状態です。特に高齢者や入院患者によく見られます。この記事では、せん妄の症状、原因の重要ポイントを解説します。
せん妄とは?定義と種類
せん妄の定義と特徴
せん妄は、急性の脳機能障害です。
意識レベルの変動、注意力の低下、思考の混乱などが特徴です。認知機能の急激な変化は、患者本人だけでなく、家族にとっても大きな負担になります。せん妄は、様々な原因によって引き起こされるため、その背景にある病態を理解することが重要です。
せん妄の診断には、国際的な診断基準 DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)などに基づいて、症状の重症度や持続時間などを評価し、診断を行います。
認知症との鑑別が重要である理由は、治療方針が大きく異なるためです。正確な診断と適切な対応が、患者さんの予後を左右すると言えます。
せん妄の種類:過活動型、低活動型、混合型
せん妄には、興奮や落ち着きのなさが目立つ過活動型、活動性の低下や無気力が目立つ低活動型、そして両方の特徴が混在する混合型があります。
- 過活動型せん妄は、患者さんが落ち着きなく動き回ったり、大声で叫んだりすることがあります。
- 低活動型せん妄は、患者さんがぼんやりとしていたり、周囲の状況に反応しなかったりすることがあります。
- 混合型せん妄は、これらの症状が時間帯によって変動することがあります。
患者さんの状態を正確に把握するためには、注意深い観察と記録が不可欠です。それぞれのタイプに合わせたケアを提供できるよう、日々の変化を丁寧に捉えましょう。
せん妄と認知症の違い
せん妄は発症が急激で、症状の日内変動が大きいのに対し、認知症は緩やかに進行し、症状は比較的安定しています。
せん妄は、数時間から数日のうちに発症することが多く、症状の程度も時間帯によって大きく変動します。特に夜間や夕方に症状が悪化することがあります(夜間せん妄)。時間や場所、人物の見当識が障害され、注意を持続することが難しくなります。
一方、認知症は、数ヶ月から数年かけて緩やかに進行し、症状も比較的安定しています。見当識障害や注意障害の程度も異なります。認知症でも見当識障害は見られますが、せん妄ほど急激な変化は見られません。
これらの違いを理解することで、より適切なケアを提供することができます。
せん妄の原因とリスク因子
せん妄の主な原因
せん妄の原因は多岐にわたり、感染症、脱水、薬剤の副作用、手術、疼痛などが挙げられます。
感染症による炎症反応や、脱水による電解質バランスの乱れは、脳機能に影響を及ぼし、せん妄を引き起こすことがあります。
また、鎮静薬や抗コリン薬などの薬剤は、副作用としてせん妄を引き起こす可能性があります。
手術後の疼痛や、手術に伴う侵襲も、せん妄のリスクを高めます。
複数の要因が重なることもあります。高齢者や認知症の患者さんは、特に複数の要因が重なりやすく、せん妄を発症しやすい傾向があります。原因を特定し、適切な治療を行うことが、せん妄の改善につながります。
せん妄のリスク因子:準備因子、誘発因子、直接因子
せん妄のリスク因子として、
高齢、認知症、脳血管障害などの準備因子、
環境の変化、睡眠不足などの誘発因子、疾患や薬剤などの直接因子があります。
- 準備因子は、せん妄を発症しやすい状態を表し、高齢であることや、認知機能が低下していることなどが該当します。誘発因子は、せん妄を引き起こすきっかけとなるもので、入院による環境の変化や、夜間の騒音などが挙げられます。
- 直接因子は、せん妄の直接的な原因となるもので、感染症や薬剤などが該当します。
これらのリスク因子を把握し、対策を講じることで、せん妄の発症を予防することができます。患者さんの状態を総合的に評価し、リスク因子を特定することが重要です。
術後せん妄のリスク
特に手術後の患者さんは、麻酔薬の影響や疼痛、環境の変化などにより、せん妄を発症しやすい状態にあります。
- 準備因子は、せん妄を発症しやすい状態を表し、高齢であることや、認知機能が低下していることなどが該当します。誘発因子は、せん妄を引き起こすきっかけとなるもので、入院による環境の変化や、夜間の騒音などが挙げられます。
- 直接因子は、せん妄の直接的な原因となるもので、感染症や薬剤などが該当します。
手術前からリスクを評価し、予防策を講じることが重要です。術前の認知機能評価や、患者さんへの十分な説明、術後の疼痛管理などは、せん妄の予防に役立ちます。多職種が連携し、患者さんにとって安全で安心できる環境を提供することが大切です。
せん妄の症状とアセスメント
せん妄の具体的な症状
せん妄の症状は、
意識レベルの変動、注意力の低下、見当識障害、幻覚、妄想、興奮、不穏など多岐にわたります。
- 麻酔薬は、脳機能に一時的な影響を及ぼし、せん妄を引き起こす可能性があります。
- 手術後の疼痛は、患者さんの不安や不眠を招き、せん妄のリスクを高めます。
- 入院という環境の変化も、患者さんにとって大きなストレスとなり、せん妄を引き起こすことがあります。
- 意識レベルの変動 傾眠状態から過覚醒状態まで様々であり、日によって、または時間帯によって変化することがあります。
- 注意力の低下 質問に集中して答えられない、指示に従えないなどの症状として現れます。
- 見当識障害 時間、場所、人物が分からなくなる状態を指します。
- 幻覚 実際には存在しないものが見えたり、聞こえたりする症状です
- 妄想 誤った信念を抱く状態を指します。症状の出現パターンも患者さんによって異なります。
- 夜間に興奮する場合や、日中にぼんやりとする場合もあります。
せん妄のアセスメントスケール
アセスメントの結果に基づいて、患者さんに合わせたケアプランを作成し、せん妄の改善を目指します。
せん妄の重症度を評価するアセスメントスケールのひとつに、CAM(Confusion Assessment Method)があります。
CAM は、
- 意識レベルの変動
- 注意力の低下
- 思考の混乱
- 見当識障害
の4つの項目を評価し、せん妄の有無を判断するツールです。
その他にも、DeliriumRatingScale-Revised-98(DRS-R-98)など、様々なアセスメントスケールがあります。
定期的な評価は、早期発見と適切な対応につながるので、入院時や手術前後など、リスクの高い時期には、特に注意して評価を行うことがたいせつです。
せん妄患者とのコミュニケーション
せん妄の患者さんとのコミュニケーションでは、落ち着いた態度で、優しく、分かりやすい言葉で話しかけることが大切です。早口で話したり、専門用語を使ったりすることは避けましょう。患者さんの名前を呼び、アイコンタクトを取りながら話すことも効果的です。
現実の見当識を促し、安心感を与えるように努めます。時間や場所、人物を繰り返し伝え、混乱を軽減することが重要です。
「私は〇〇です」
「今は〇〇日の〇〇時です」
「ここは病院の〇〇病棟です」
など、具体的な情報を提供しましょう。
不安や恐怖を感じている場合は、優しく寄り添い、安心できる言葉をかけましょう。
せん妄の看護ケアと看護計画
せん妄患者への看護ケアの原則
せん妄の看護ケアでは、安全の確保、見当識の維持、環境調整、薬物療法のサポートなどが重要となります。
- 安全の確保 転倒や事故を防止するために、ベッド周囲の環境整備や、患者さんの状態に合わせた見守りを行うことが含まれます。
- 見当識の維持 時間や場所、人物を繰り返し伝えることで、患者さんの混乱を軽減します。
- 環境調整 明るさや騒音、温度などを調整し、患者さんが安心して過ごせる環境を整えることを指します。
- 薬物療法のサポート 医師の指示に基づいて、適切な薬剤を投与し、副作用を観察することを含みます。
患者さんの状態に合わせて、個別的なケアを提供しましょう。
せん妄の予防的ケア
せん妄の予防には、適切な水分補給、栄養管理、睡眠環境の整備、疼痛コントロールなどが効果的です。
- 脱水や栄養不足 脳機能に悪影響を及ぼし、せん妄のリスクを高めます。十分な水分と栄養を摂取できるように、食事や水分摂取をサポートしましょう。
- 睡眠不足 せん妄の誘因となるため、安眠できる環境を整えることが重要です。夜間の照明を調整したり、騒音を軽減したりするなどの工夫をしましょう。
- 疼痛 患者さんの不安や不快感を増大させ、せん妄のリスクを高めます。適切な疼痛コントロールを行い、患者さんの苦痛を和らげましょう。
多職種と連携し、包括的なケアが大切です。
まとめ:せん妄ケアの重要性と今後の展望
せん妄は、患者さんのQOLを著しく低下させるだけでなく、入院期間の延長や死亡率の上昇にもつながる可能性があります。
せん妄によって、患者さんは混乱や不安を感じ、日常生活を送ることが困難になります。また、せん妄は、患者さんの身体機能や認知機能を低下させ、入院期間を延長させる可能性があります。さらに、せん妄は、死亡率の上昇にも関連していることが報告されています。早期発見と適切なケアが不可欠です。
せん妄の早期発見のためには、定期的なアセスメントを行い、症状の変化に注意することが重要です。適切なケアのためには、多職種が連携し、患者さんに合わせた個別的なケアを提供することが大切です。